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いじめが原因で教室が怖くなった子どもへ――トラウマ・PTSDの理解と回復への向き合い方

「あの教室のことを思い出すと、今でも動悸がする」「もう終わったはずなのに、フラッシュバックが止まらない」——いじめなどのつらい経験は、時間が経っても心と体に深い影響を残すことがあります。この記事では、トラウマ・PTSD(心的外傷後ストレス障害)の基本的な理解と、回復に向けて家庭でできることについて、できるだけ具体的に解説します。
この記事でわかること
  • いじめによるトラウマ・PTSDとはどんな状態か
  • 「もう終わったこと」では片づけられない理由
  • 見られやすいサインと、家庭でできること
  • 学校・専門機関への相談の仕方
  • 安心できる環境で学びを続ける選択肢

トラウマ・PTSDとは

強い恐怖や苦痛を伴う出来事を経験すると、その記憶がフラッシュバックのように繰り返しよみがえったり、関連する場所や状況を強く避けるようになったりすることがあります。国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」によると、こうした状態が続き、日常生活に影響を及ぼすものはPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼ばれ、決して珍しいものではないとされています。すべてのいじめ被害者がPTSDを発症するわけではありませんが、経験した出来事の深刻さや期間、周囲からのサポートの有無などによって、症状の現れ方や強さは大きく異なります。

いじめによる心の傷は、身体的な暴力を伴わない場合であっても、深いトラウマとして残ることがあります。無視され続けた経験、言葉による繰り返しの傷つき、仲間はずれにされた記憶——これらもまた、本人の心に長く残る傷になりえます。

「殴られたわけではないから大したことない」という考え方は、こうした心理的な傷の深さを見落としてしまう危険があります。目に見える怪我がなくても、信頼していたはずの人間関係の中で傷つけられた経験は、その後の人間関係全般への不安につながることも少なくありません。

図解:トラウマ記憶が繰り返しよみがえる仕組み
1きっかけに触れる

教室・制服・特定の音など、当時を連想させる刺激

2記憶がよみがえる

当時の恐怖や苦痛が、今の出来事のように再体験される

3強い反応

動悸・緊張・強い不安などの身体反応が起こる

4回避

きっかけとなる場所や状況を避けるようになる

この反応は、本人の気持ちの弱さではなく、脳と体に刻まれた自然な防御反応です。周囲が「もう終わったんだから」と急かすことは、本人にとってさらなる苦痛になることがあります。

脳は、危険な出来事を記憶し、同じような状況を素早く察知して身を守るという本来の機能を持っています。トラウマ反応は、この防御システムが過剰に働いてしまっている状態と考えることができます。「弱いから怖がっている」のではなく、「体が必死に自分を守ろうとしている」のだと理解することが、本人への接し方を変える大きなヒントになります。

「もう終わったこと」では片づけられない理由

いじめそのものが終わっても、教室・制服・特定の音や気配など、当時を連想させる刺激に触れることで、当時の恐怖や苦痛が今の出来事のように再体験されることがあります。これは本人の気持ちの弱さではなく、脳と体に刻まれた自然な防御反応です。時間が経てば自然に忘れられるものだと考えられがちですが、トラウマ記憶は通常の記憶とは異なる形で脳に保存されるとされており、「忘れよう」という意志の力だけでは消えにくいという特徴があります。

周囲の大人にとっては「もう卒業したのだから」「新しい学年になったのだから」と、区切りを理由に前向きになることを期待してしまいがちです。しかし、本人の心の中では、環境が変わっても記憶や恐怖がそのまま残っていることが少なくありません。外的な区切りと、内面の回復のペースは必ずしも一致しないことを理解しておく必要があります。

見られやすいサイン

見られやすいサイン
  • 特定の場所(教室・通学路など)を強く避けるようになった
  • 物音や視線に過敏に反応し、緊張した様子が続いている
  • 以前は平気だったことにも、強い不安を示すようになった
  • 感情の起伏が激しくなったり、逆に感情が乏しくなったりする

これらのサインが見られる場合、無理に元の環境に戻そうとするのではなく、まず安心できる環境を確保することが優先されます。眠りが浅くなる、悪夢を見るようになる、といった睡眠面の変化として現れることもあります。

また、年齢によってサインの現れ方が異なることもあります。小学生では、赤ちゃん返りのような行動や、原因不明の体調不良として現れることがあります。中学生・高校生では、感情を表に出さず、一人でため込んでしまうケースも少なくありません。「大丈夫そう」に見えても、内側に大きな不安を抱えていることがあるという前提で、日々の様子を注意深く見守ることが大切です。

親子で穏やかに歩く様子

家庭でできること

1. 安全な環境を最優先する

回復のためには、まず「ここにいれば安全だ」と感じられる環境を確保することが土台になります。無理に原因となった環境に近づけようとせず、心身を休ませることを優先してください。「早く元の生活に戻さなければ」という焦りは自然な気持ちですが、安全が確保されていない状態での無理な復帰は、かえって回復を遅らせてしまうことがあります。

2. 詳しく聞き出そうとしすぎない

何があったのかを詳しく聞き出そうとすることが、本人にとって出来事を再体験する負担になることがあります。本人が話したいタイミングを待つ姿勢も大切です。「話したくないなら話さなくていい」という選択肢を保証してあげることが、かえって本人の安心感につながり、結果的に話しやすい雰囲気を作ることもあります。

3. 「いつまでに元気になるべきか」を決めつけない

回復のペースには大きな個人差があります。焦らず、本人の状態に合わせて関わり方を調整してください。周囲の他の子どもと比較して「もっと早く元気になれるはず」と考えてしまうことは、本人にも保護者にも余計なプレッシャーになります。その子自身のペースを、その子だけの物差しとして大切にしてください。

4. 小さな「安心の積み重ね」を大切にする

すぐに大きな変化を求めず、「今日は少し笑えた」「昨日より落ち着いて過ごせた」といった小さな変化を、本人と一緒に喜ぶことも、回復への支えになります。

図解:回復に向けた関わり方の優先順位
1安全を確保

まず安心できる環境をつくる

2見守る

詳しく聞き出そうとせず、そばにいる

3専門家に相談

症状が続く場合は専門機関へ

4少しずつ広げる

本人のペースで人との関わりを取り戻す

回復までの経過について

トラウマからの回復は、一直線に進むものではなく、良い日と悪い日を繰り返しながら、少しずつ前に進んでいくことが一般的です。「昨日は落ち着いていたのに、今日はまた不安定になった」という変化があっても、それは後退ではなく、回復の過程で自然に起こりうることです。

周年行事や、いじめがあった時期と同じ季節が巡ってくることで、一時的に症状が強まる「アニバーサリー反応」と呼ばれる現象が見られることもあります。こうした反応が起きても、慌てずに「今、こういう反応が出ているんだな」と受け止め、必要に応じて専門家に相談しながら乗り越えていくことができます。

学校・専門機関への相談

いじめの事実については、学校・教育委員会への相談に加え、文部科学省もいじめ問題への対応方針を公表しています。相談する際は、いつ・どこで・どのようなことがあったかを可能な範囲で記録しておくと、学校側の調査や対応がスムーズに進みやすくなります。心身の症状が続く場合は、心療内科・精神科・スクールカウンセラーなど、専門機関への相談も検討してください。

いじめ防止対策推進法に基づき、学校にはいじめの防止・早期発見・対処に関する組織的な体制を整える責務があります。学校がなかなか動いてくれないと感じる場合は、この法律の存在を伝えたうえで、書面での相談記録を残すことも一つの方法です。

相談の記録は、日付・場所・具体的な出来事・その時の本人の様子を簡潔にメモしておくだけでも構いません。時間が経つと記憶があいまいになりがちなため、気づいたときにこまめに記録しておくことが、後の相談や調査の場面で役立ちます。

学校との話し合いがうまく進まない場合や、対応に納得できない場合は、教育委員会や、法務局の子どもの人権相談窓口など、学校以外の相談先を活用することもできます。一人で抱え込まず、複数の相談先を持っておくことが、本人と家族を守ることにつながります。

スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーは、本人の心理的なケアだけでなく、家庭と学校の間を取り持つ役割も担っています。学校との関係がぎくしゃくしていると感じる場合、こうした専門職を間に入れることで、話し合いがスムーズに進むこともあります。

受診を検討したいタイミング

フラッシュバックや強い回避行動が1か月以上続いている場合、日常生活に大きな支障が出ている場合は、専門機関での評価を受けることをおすすめします。国立精神・神経医療研究センターの情報によると、PTSDには薬物療法や心理療法が有効とされています。早めの相談が、回復への助けになることがあります。

子どものトラウマに詳しい専門機関を選ぶことも大切なポイントです。事前に電話などで、子どものトラウマ・PTSDへの対応実績があるかを確認しておくと、安心して相談を始めやすくなります。

陽の差す穏やかな風景

安心できる環境の中で、学びを止めない選択肢

トラウマからの回復にはある程度の時間がかかることがあります。その間、学びそのものを止めてしまう必要はありません。つらい記憶と結びついた場所から離れながらも、学びとのつながりを保てる環境があることを知っておくと、本人・保護者双方の安心につながります。

NIJINアカデミーより

この記事は、全国から900名を超える子どもたちが通うオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」の知見も踏まえて構成しています。いじめによって教室そのものが怖くなってしまった子どもたちにも、安心できる環境から学びを再開できる選択肢があることをお伝えしています。

NIJINアカデミーという選択肢

NIJINアカデミーは、小学1年生から中学3年生を対象としたオンラインのオルタナティブスクールです。自宅という安心できる場所からバーチャル校舎(ovice)にアクセスできるため、つらい記憶と結びついた教室に物理的に足を運ぶ必要がありません。カメラ・音声をオフにしたままの参加もでき、本人のペースで少しずつ人との関わりを取り戻していくことができます。

1:1の専任サポート担任は、教員経験や不登校経験を持つ人材の中から選考を通過した信頼できる大人が務めます。過去のつらい経験を知ったうえで、本人のペースに合わせて根気強く伴走してくれる存在がいることは、対人関係への不安を抱える子どもにとって大きな安心材料になります。

1:1の専任サポート担任が継続して伴走し、クラスは8〜10人程度の少人数制。在籍校を今すぐやめる必要はなく、学校と併用しながらNIJINに通う生徒も多くいます。希望する生徒の9割以上が在籍校の出席認定を得ています(2025年4月時点、株式会社NIJIN公式プレスリリースより。最終的な出席の判断は学校によります)。全国から集まる異年齢の生徒たちとの新しい人間関係は、過去のつらい経験と切り離された、安心できる新しいスタートになることもあります。

定期テストがなく、担任による所見(ポートフォリオ)で成長を可視化する評価方法のため、「評価される」ことへの恐怖を感じにくい環境も特徴です。人と比べられるプレッシャーの少ない場所で、少しずつ自信を取り戻していくことができます。

タブレットを使って学ぶ子どもたち
安心できる場所から、少しずつ歩き出す

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NIJINアカデミーの雰囲気を動画で見る

実際にどのような形でクラスに参加しているのか、公式YouTubeチャンネルの動画も参考にしてみてください。

NIJINアカデミーでの学びの様子(公式YouTubeチャンネルより)

子どもたちの声

よくある声(一例)

「教室という場所そのものが怖くて、体が動かなくなった」「顔を出さなくても参加できると知って、少しずつ人と関わる勇気が持てた」「同じように傷ついた経験を持つ友達に出会えて、一人じゃないと思えた」「自分のペースで少しずつ話せるようになり、信頼できる大人が増えた」——いじめによるつらい経験を抱えてきた子どもたちからは、こうした声がよく聞かれます。すぐに元の環境に戻ることを目指さなくても、安心できる場所から少しずつ歩みを進めていけることが、回復への大切な一歩になります。

タツロー校長からのメッセージ

「明るくない子どもなんていない。問題児なんてたったの一人もいない」——これは、公立小学校の教員だった星野達郎(タツロー)校長がNIJINアカデミーを設立した原点にある言葉です。深く傷つき、人との関わりに恐怖を感じている子どもたちにも、同じことが言えるはずです。

公園で過ごす子どもたち

保護者自身のケアも大切に

子どもがいじめの被害に遭ったことを知った保護者自身も、大きなショックや怒り、無力感を抱えることがあります。保護者自身が孤立せず、学校・専門機関・信頼できる人に頼りながら、子どもと一緒に回復の道を歩んでいくことが大切です。「自分がもっと早く気づいてあげられたら」と自分を責めてしまう保護者も少なくありませんが、気づいた今から始められることに目を向けてください。

加害者側やその保護者への強い怒りを感じることも自然な反応です。ただし、その怒りにエネルギーを注ぎすぎると、本人の回復に向き合う時間や気力が削がれてしまうこともあります。まずは子どもの安全と回復を最優先にし、加害者側への対応は学校や専門機関を通じて冷静に進めていくことをおすすめします。

きょうだいへの配慮

きょうだいが同じ学校に通っている場合、きょうだい自身も気を遣ったり、不安を感じたりすることがあります。家庭内で状況を適切に共有し、きょうだい自身の気持ちにも目を向けることが、家庭全体の安定につながります。特に、きょうだいが加害者側の子どもと接点を持つ可能性がある場合は、きょうだいの安全にも配慮しながら、学校とも情報を共有しておくことが大切です。

よくある質問

いじめの相手と同じ学校に通い続ける必要がありますか?
安全を最優先に、学校・教育委員会と相談しながら、クラス替えや転校、学びの場を変えるなど、複数の選択肢を検討することができます。
フラッシュバックが起きたとき、どう対応すればよいですか?
無理に忘れさせようとせず、安心できる場所・人のそばで落ち着くまで待つことが大切です。頻繁に起きる場合は、専門機関への相談をおすすめします。
回復にはどのくらい時間がかかりますか?
個人差が大きく、一概には言えません。焦らず、専門家のサポートを受けながら、本人のペースを大切にしてください。
何科を受診すればよいですか?
精神科・心療内科での相談が一般的です。まずはスクールカウンセラーに相談し、必要に応じて医療機関を紹介してもらう方法もあります。
学校に相談しても対応してもらえません
教育委員会や、法務局の子どもの人権相談窓口など、学校以外の相談先も活用できます。一人で抱え込まず、複数の窓口に相談してみてください。
本人が何も話してくれません
無理に聞き出そうとせず、「いつでも話を聞く準備がある」ということを伝えながら、本人のタイミングを待つことが大切です。
薬による治療は必要ですか?
症状の程度によっては、不安や不眠に対する薬物療法が行われることがあります。心理療法と組み合わせることが一般的です。
加害者側への対応はどうすればよいですか?
学校・教育委員会を通じた対応が基本となります。深刻なケースでは、弁護士や警察への相談も選択肢となることがあります。
きょうだいにどう説明すればよいですか?
状況を年齢に応じた言葉で伝え、きょうだい自身が不安や責任を感じすぎないよう配慮することが大切です。
オンラインの学びでも、人間関係を築けますか?
カメラをオフにしたまま参加できる、少人数制であるなど、対面とは異なる形で安心して関係を築ける環境もあります。焦らず本人のペースを大切にしてください。

まとめ

いじめによるトラウマ・PTSDは、時間が経てば自然に消えるものではなく、専門的な理解と支援を必要とする心の傷です。「もう終わったこと」と急かさず、まず安全で安心できる環境を確保することを最優先にしてください。学校や専門機関への相談も、本人と家族を守る大切な一歩です。回復に時間がかかる間も、学びを止めない選択肢があることも、あわせて知っておいていただければと思います。回復は一直線には進みませんが、安心できる環境と信頼できる人との関わりの中で、少しずつ前を向いていけるようになることがほとんどです。今つらい状況にあっても、その先に穏やかな日々が待っていることを、どうか忘れないでください。

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参考文献