「勉強しないと将来困るのではないか」
保護者からも、子ども本人からも、もっとも多く寄せられる問いです。
NIJINアカデミー校長・星野達郎は、小学校教員から起業し、いまは会社を経営しながら1000人近い小中学生を受け入れる学校の校長を務めています。採用する側として3000人以上の書類に目を通してきた立場でもあります。
その両方の視点から、学校の勉強のこと、そして親としてどう関わればいいのかについてお話しした内容をまとめました。
- 学校の勉強をしていないと就職できないのか
- 学校の教科は、そもそも誰が決めているのか
- 「不登校の5人に1人は就学していない」という記事の読み方
- 勉強ができれば幸せになれるのか
- 学歴をどう考えればいいのか
- 引け目を感じている子への声のかけ方
- フリースクールをどう切り出すか
- YouTubeやゲームばかりのときの関わり方
- 「自分には秀でたものがない」と言われたら
- 何を優先して考えればいいのか
学校の勉強について
まず、「学校の勉強をしていないと困る」という前提そのものを、いくつかの角度から見直してみます。
学校の勉強をしていないと、就職できませんか?
そんなことはありません。変化が起きているのは、採用する側です。
近年、応募書類に「学生時代にこんなイベントを開催しました」という記事のURL、「仲間とこんな作品をつくりました」という作品のURL、運営しているチャンネルやアカウントを添えてくる人が増えています。
採用する側から見ると、これは学歴よりもはるかに多くのことがわかります。この人は仲間と何かを形にできる人だ。前に出る仕事が得意なタイプだ。裏方で人を支えるのが上手な人だ——学歴の一行ではわからないことが、実績からは伝わってくるのです。
従来のペーパーテストでは測れなかった、いわゆる非認知能力をAIやネット技術で可視化し、より精度の高いジョブマッチングにつなげようとする動きが、すでに大企業やスタートアップで進んでいます。これは構想の段階ではなく、目の前まで来ています。
30代・40代以降の方の履歴書には、多くの場合「〇〇高校卒業」「〇〇大学卒業」しか書かれていません。それはその時代には仕方のないことでした。
いまの10代・20代、とりわけ不登校を経験した子たちには、学校に縛られなかった分の時間があります。人と違う視点を持ち、自分の関心をひとつ深く掘り下げてきた子が多い——というのが、日々生徒たちを見ている実感です。
学校の勉強は、そもそも誰が決めているのですか?
「これをやれば幸せになる」という絶対的な根拠で決まっているわけではありません。
教科の内容は、その時代の経済界や特定の個人の働きかけによって決まる側面があります。
たとえば道徳が正式な教科になった背景には、昭和を代表する経営者が長年にわたり提唱し続けてきた経緯があります。小学校英語の導入も、日本がグローバルに競争していくためには英語が必要だと考えた経済界の人々の働きかけがありました。プログラミング教育も同様です。
学習指導要領を審議する中央教育審議会のメンバー構成を見ると、公的セクターに関わる方の比率が高いことがわかります。良い悪いの話ではなく、価値観に偏りが生まれるのは自然なことです。
もっと時代をさかのぼれば、地動説を唱えたガリレオは裁判にかけられました。地球が動いていると言われると困る立場の人たちがいたからです。何が正しい知識とされるかは、その時代に力を持つ人の都合と無関係ではない。これは400年前だけの話ではありません。
つまり、「日本人全員に絶対に必要だから」という理由だけで教科が決まっているわけではない。この事実を知っておくと、お子さんが学校に合わなかったときに「別の道もあるかもしれない」と考えられるようになります。
星野は「勉強するな」と言っているわけではありません。自分が楽しいと思える教科、夢中になれる教科は、とことんやったほうがいい。星野自身も数学と物理だけは一生懸命やった、と話しています。他の教科をやらなかったからといって、社会で役に立たないとも思っていない、とも。
「不登校の5人に1人は就学も就業もしていない」という記事を見て不安です
その調査が、いつのデータなのかを見てみてください。
そうした数字を目にすると、誰でも焦ります。5人に1人、と言われれば不安になって当然です。
まず、元になっているデータを見てみましょう。
これは、中学3年生のときに不登校だった子が20歳になった時点で何をしていたかを調べた追跡調査です。就業が34.5%、就学が27.8%、就業と就学の両方が19.6%。そして非就業かつ非就学が18.1%。この18.1%が「5人に1人」として引用されている数字です。
裏を返せば、8割以上は働くか学ぶか、あるいはその両方をしているということでもあります。
そのうえで、もうひとつ大事な点があります。この調査の対象は、2006年から2011年にかけての5年間です。
当時はスマートフォンもYouTubeもありません。オンラインで学ぶという発想自体がなく、通信制高校の選択肢も、いまとは比べものになりません。フリースクールもオルタナティブスクールも、いまほど選べませんでした。まったく違う時代のデータです。
参考にするのは構いません。しかし、それに振り回されないでいただきたい、というのが率直な思いです。データやファクトは、過去の延長線上しか予測できません。
学校の勉強ができれば、幸せになれるのでは?
何より大事なのは、自分に合った道を選ぶことです。
ひとつ考えてみたいデータがあります。世界最高峰とされる大学の学生のうち、2割以上がうつ症状を、2割以上が不安症状を報告しているという調査があります。学校の勉強をもっとも上手にこなしてきた人たちが集まる場所で、です。
会社を経営し、日本のトップ大学を出た人たちとも数多く向き合ってきて実感するのは、自分に合った道を選ぶことが何より大事だということです。
勉強が好きで、得意で、その道に進みたいのなら、それは素晴らしいことです。しかし音楽が好き、アートが好き、ものづくりが好きなのに、その道を選ばず「そのほうがいいから」という理由だけで別の道を選ぶ——それは合っていないのではないでしょうか。
学歴は、どう考えればいいのでしょうか
限られた椅子を上から順に取っていく、終わらない椅子取りゲームのような側面があります。
あの大学には何人、その次の大学には何人。さらに進むと、あの企業には何人、この企業には何人。決められた数の席を上から順に埋めていくゲーム。星野はそう見ています。早めにそのゲームから降りるという選択も、十分にありうる、と。
100年ほど前に書かれた『脱学校の社会』という本があります。著者は、学校は「教えなければ学ばない」という錯覚を植えつけ、人間が本来持っている自ら学ぶ力、互いに教え合う力を奪ってしまうと指摘しました。そして学歴社会とは、その人がどれだけ長く学校という機関に依存したかを測る儀式だ、とも。
極端な主張ではあります。ただ、有名大学の名前を聞くと反射的に「すごい」と思ってしまうのはなぜか、と考えてみると、思い当たるところもあるのではないでしょうか。全員が同じ内容を、同じ方法で、同じ基準で評価される仕組みの中で長く過ごしてきたから、その中で結果を出した人が自動的に一番偉いと感じるようになる。そういう面は確かにあります。
もちろん、その道で優れていることは事実です。ただ、それだけではないはずです。音楽の道、プログラミングの道、人にやさしくできること、お客さんを大事にすること。それぞれの道で、それぞれの優れ方があります。
親としてどう関わるか
ここからは、講演の質疑応答で保護者の方から寄せられた具体的な質問への回答です。
学校に行けないことを引け目に感じている子に、どう声をかければいいですか?
嫌だったことを、言葉にしておくことをおすすめします。
その前にひとつ。学校という場所は、世の中の変化から見れば、けっして先を行っているわけではありません。AIやITの活用について言えば、教育現場と民間との間には相当な距離があります。学校に行っていないことが、そのまま「遅れている」ことにはなりません。
そのうえで、嫌だったことの言語化です。
ある中学生は「体操服が囚人服みたいで嫌だ」と話していました。当時はただの不満に聞こえるかもしれません。しかし3年経ったいま、その子は大学の教授と一緒に教育の研究に取り組み、海外の大学の教育学部への進学を目指しています。学校の何がどう嫌だったのかを、当時きちんと言葉にしていたからこそ、その問題意識が進路につながったのです。
マイナスの部分を、なかったことのように取り繕っても仕方がありません。嫌だったこと、嫌いだったことをきちんと受け止めてもらえた子は、何年か経つとそれが武器に変わっていきます。
逆に、隠そうとしたり周囲が否定したりすると、コンプレックスのまま残り、慢性的なストレスとなって生きづらさに変わってしまいます。ハンディキャップが武器になるか、生きづらさになるか。その分かれ目は、周囲の環境にあります。
本人がひどく傷ついていて、話すこと自体が難しい状態であれば、言語化を促すより先に、医療機関や専門機関に相談することを優先してください。順番を間違えないことが大切です。
フリースクールについて、子どもにどう切り出せばいいですか?
親が「やらせよう」とすると、子どもはその意図を敏感に察知します。
親は入れたいけれど、子どもがまったく食いつかない——非常によくあるご相談です。
うまくいったケースに共通しているのは、「本人の興味の入り口から入る」ことと「押しつけない設定にしておく」ことです。
ゲームが好きな子に、そのゲームのサークルがあることを伝えたら「あるんだ、じゃあやってみる」となった、というケースがあります。パンフレットを机の上にさりげなく置いておいたら、すんなり話が進んだ、というケースも聞きます。
タイミングと打ち出し方、そして「さりげなく置いておく」という設定づくりが鍵かもしれません。
一日中YouTubeやゲームばかりで、新しいことを始められません
否定ではなく、承認を。そして、親も一緒に楽しんでしまうこと。
いまの若い世代の知識量や話術は本当にすごい。その源泉のひとつはショート動画やYouTubeです。学校の先生の話を聞くより、はるかに多くのことを吸収している面すらあります。
そして、本人も「このままでいい」とは思っていません。必ず時は来ます。だからこそ、その時が来たときに思い出してもらえるような関わりを、いまのうちにしておきたいのです。教育には長い時間軸が必要です。
具体的には、「昨日は8時間見ていたのに、今日は自分でやめられたね」——そういう声かけです。責めるのではなく、できたところを見つけて言葉にする。
もうひとつ、意外とおすすめなのが「親も一緒になって楽しんでしまう」こと。親が子ども以上にハマると、子どものほうが引きます。ゲームでも同じです。一緒に見て笑ったり、推しのライブやトークショーに行ってしまったりする。YouTubeの話を親子でするだけでも、コミュニケーション能力や表現力は確実に伸びていきます。
時が来たときに本人を動かすのは、多くの場合、同世代の子どもたちです。「自分より苦しかった子があんなに頑張っている」——そうした出会いが力を持ちます。子ども同士の影響力は、大人が思うよりずっと大きいのです。
「自分には秀でたものがない」と落ち込んでいます
そもそも、秀でている必要はありません。
親としては「そんなことないよ」と言い続けるしかありませんし、言い続けるべきだと思います。そして実際に、本当にそんなことはないのです。
自分らしくあることが、誰かに良い影響を与えている——その事実は必ずあります。食器を丁寧に洗っている。きれいに整頓している。次に使う人のことを考えて気を使える。そういうことでいいのです。
そして、それを認めてくれる人は必ずいます。問題は本人の能力ではなく、それを認めてくれる環境と出会えているかどうかです。
学校では「ダメだ」と言われ続けていた人が、社会で少し変わった大人に出会った途端「面白いじゃん」と評価される——そういうことが実際に起こります。星野自身がそうでした。
いちばん大事なこと
最後に、講演を通して星野がもっとも強く伝えていたことを。
結局、何を優先して考えればいいのでしょうか
環境です。何より、環境を選ぶことにこだわってください。
学校に合わない子は、平均的な個性を持つ子ではありません。だからこそ、環境の影響を人一倍強く受けます。同じ子が、ある場所ではまったく動けず、別の場所では誰よりも生き生きと過ごす。それが普通に起こります。
NIJINアカデミーで働くスタッフにも、学校では周囲が気になって仕事が手につかず体調を崩してしまった人がいます。その人が、心理的に安全な自宅から働くと、驚くほど生き生きと力を発揮します。環境というのは、それほど大きいのです。
もうひとつ、時間軸の話をさせてください。
一般的なビジネスは、右肩上がりに少しずつ伸びていきます。一方でスタートアップは、はじめに赤字を掘ってから、あるところで一気に伸びる。星野は、学校に合わない子の育ち方はこちらに近いと考えています。いわゆる大器晩成型です。
10歳や20歳の時点で何をしているか。そこで測るのではなく、ゆっくり時間をかけて、最終的に自分らしく誰かを幸せにしていく。そういう見方をすると、いま見えている風景も変わってきます。
講演で紹介されたこの図は、人格形成の伸び方が子どもによって違うことを示したものです。ゆっくり立ち上がっても、最終的には同じところに到達する。同じ年齢で並べて比べることに、どれほどの意味があるのかという話です。
個性がユニークな子には、「理由はいいからやりなさい」「やったらご褒美をあげる」という従来型の関わりが効きません。心がまっすぐで正直だからです。
NIJINアカデミーが拠り所にしているのが、自己決定理論という考え方です。
人のやる気は、「罰や報酬で動く」段階から「楽しさや興味から動く」段階まで段階的に並んでいます。左に行くほど他人に決められた状態、右に行くほど自分で決めた状態です。
従来の学校教育が使ってきたのは、多くが左寄りの動機づけでした。しかし右側——心から湧き上がってくるもの——のほうが、行動は長続きし、深くなります。
だからこそ、心から湧き上がってくることをやらせてあげてほしい。それがいま学校で潰されているのなら、環境を選び直してほしい。星野が保護者に伝えたかったのは、その一点です。
すべての人に、幸せになる力と、人を幸せにする力がある。
これはNIJINという社名に込められた考え方です。人と違う個性を持って生まれること、あるいはそういうお子さんを持つことは、多数派とは違う分だけ、壁や孤独を感じる場面もあります。
けれど、しんどさを知っている人は、将来、人にやさしくできる。人を幸せにできる。星野はそう信じています。
「なりたい姿」に、少人数で伴走するオルタナティブスクール
NIJINアカデミーは、全国から累計1000名を超える子どもたちが通うオンラインのオルタナティブスクールです。学年や教科書に縛られず、一人ひとりの興味や「やってみたい」を起点に、教師が伴走しながら学びをつくっていきます。在籍校の出席として認定されるケースも多く、「学校に戻る・戻らない」に関わらず選べる進路のひとつです。
タツロー校長|教育から世界を照らす
この記事で触れた内容は、動画でもくわしく話しています。不登校と進路、子どもとの関わり方、学校のしくみについて、ほぼ毎日更新しています。「うちの子の場合はどうだろう」と思ったとき、まず覗いてみてください。
チャンネルを見る進路の相談だけでも、かまいません
NIJINアカデミーでは毎日、体験会を実施しています。どんな場所なのか、お子さんがどんな風に過ごせるのかを実際に見ていただけます。「まだ決めていないけれど話だけ聞きたい」という方も歓迎です。

