「これは、1人で作りました」
ダンボールで手作りしたコスメを見せながらそう教えてくれた、小学4年生のゆずちゃん。
2年生の10月頃にニジアカへ入学した当時は、お母さんと離れることが難しいほどでしたが、そこから少しずつ自分の「好き」や思いを表に出せるようになっていきました。今年5月には、EDIX東京で自ら手を挙げて登壇するまでになりました。
この記事では、ゆずちゃんが少しずつ「自分」を出せるようになっていった歩みをお届けします。
お母さんと離れることが難しかった頃
ゆずちゃんが学校に通いづらさを感じ始めたのは、小学1年生の頃でした。一番大きかったのは、お母さんと離れることへの不安だったといいます。
「お母さんと離れるのが嫌になって、ダメな未来のことを考えちゃうんですよ」
2年生になると、プールの授業が苦手だったことをきっかけにさらに不安が強まりました。救急車の音を聞くだけで泣いたり、夜うなされたりするようになったといいます。お母さんの身に何かあったのでは、と考えてしまうこともあったそうです。
「6時にお迎えに行くよって言って、7時とかになっちゃったりして、それで、救急車の音とかがしたら、運ばれちゃったんじゃないかなとか思っちゃって」
それでも2年生1学期までは頑張って通いました。けれど、夏休み明け、学校へ行けなくなりました。
「行きたくなくなって、最初。1日目。で、1回休んだんですよ。そこから毎日行きたくない行きたくないになって、1週間ぐらい行かなくて。そこからもうずっと行ってないですね」
学校では「ちゃんとしなきゃ」と感じていたゆずちゃん
一方、お母さんの目には、学校生活の中にも不安の種が積み重なっているように映っていました。
「こっちから見ると学校での不安になるポイントがいっぱいあるように見えてた感じです」
1年生の頃から行き渋りはあり、教室の前で「今日はこの授業でどんなことをするのか」を先生に確認してから入る、という日々が続いていたそうです。日によって対象は図工だったり、生活や音楽、体育だったりしたといいます。
決まった流れのある国語や算数は大丈夫でも、決まった流れがないような授業には不安を感じていました。ある日、図工の授業で設計図どおりにつくる時に「こうした方がいい」と先生に言われたことを「怒られた」と受け止めてしまったこともあったようです。
それは、ゆずちゃんの心の中に、もうひとつの声があったからです。
「ちゃんとしないとダメっていう、お腹とか体の中にいる小さな小人が言ってるみたいな感じ」
お母さんも「自分の中の完璧な人が、完璧じゃないと怒ってくる」と幼い頃のゆずちゃんが話していたことを覚えています。
「ちゃんとしなきゃって、思っちゃう」
こうした感覚も、もしかしたらゆずちゃんの中に少しずつ積み重なっていたのかもしれません。
お母さんと一緒の空間から始めたニジアカ
学校に行けなくなってからしばらくして、ニジアカと出会いました。
「ママが、オンラインで通えるニジアカを見つけたよって言って、やってみたいってなって入りました」
ゆずちゃんは、そう振り返ります。
オンラインの体験会に参加したゆずちゃん。当時はパソコンにほとんど触れたことがなく、操作にも戸惑ったそうです。ゆずちゃんにとって、強く印象に残ったものがありました。
「肩ポンとか、色々できたりして、こんなのがあるんだなって思いました」
画面の中でリアクションを送れることに驚いたそうです。この体験会がきっかけでニジアカに入学しました。この頃は、ゆずちゃんは近くのフリースクールにも通いながら過ごしていました。
授業に参加し始めた頃は、声を出すことがまだ難しく、チャットで発言していました。
「学校の授業はつまらなかったけど、ニジアカの授業は面白いなーって感じになってました」
タイピングは、まだ覚えたてで、お母さんに教わりながら少しずつ使えるようになっていったそうです。
ニジアカに入学してすぐの頃は、お母さんから離れることがまだ難しく、お母さんの仕事について行く日々。そんな中で、同じ空間にお母さんがいれば1人で過ごせるようになりました。そこから少しずつ、お母さんと離れて過ごせる時間を延ばしていったそうです。
先生や友だちとの関係ができていった
ゆずちゃんは、小学3年生からハイジ先生のクラスで学んでいる、と教えてくれました。ハイジ先生のことは「気楽に話しかけれる」存在だと言います。
ハイジ先生が覚えているのは、ゆずちゃんの入学後間もなくに行われたリアルイベントの大阪のピクニック(2024年11月)でのゆずちゃんの姿でした。
「お母さんの後ろに隠れているような、ちょっとおとなしぶってる感じで、ひょこひょこ周りを見ていて」
ハイジ先生は、こう言葉を続けました。
「そこから始まったな、と思ってます」
ゆずちゃんにとってニジアカで最初にできた友だちは、このピクニックで出会った1つ年下の女の子でした。声をかけてもらったことがきっかけで仲良くなり、一緒にオンラインゲームのロブロックスで遊ぶようになったそうです。
「その子と仲良くなって、お友だちが1人はできました」
最近は、クラスで新たなつながりもできています。
「クラス会議で、結構仲良い子がいて、その子と1週間に1回は遊んでます」
今のゆずちゃんについて、ハイジ先生はこう話します。
「相手に対するリアクションがまず温かい。優しい。お姉ちゃんだなって」
下の学年の子を気にかける様子も見られるそうです。実際に会うことは少なくても、画面の向こうにちゃんと仲間がいる。そんな感覚が、ずっとゆずちゃんを支えているようです。

▲今につながる物語の始まりとなった
大阪のピクニック(2024年11月)
友だちと一緒に様々な材料を使って
自分たちだけの家を制作中

▲安心して参加できる、学びの時間
ハイジ先生のクラス会議で
友だちの発表を聞いている場面
自分の「好き」を作品にして伝えられるようになった
最近夢中なのが、ダンボールで手作りするコスメです。きっかけは、YouTubeでダンボールコスメを作る動画を見たことでした。最初は、動画を見ながらお母さんと一緒にいくつか作っていたそうです。
「全部手作りなんですよ」
熱中している様子は、誕生日プレゼントのリクエストにも表れています。
「誕生日プレゼントに何が欲しいって聞いたら、ダンボールコスメ作ってほしいって言われて」
お母さんは、そう振り返ります。
そうして少しずつ、ゆずちゃん自身も1人で作るようになりました。
「これは、1人で作りました」
作品は、10個以上。
1つ制作するのに1〜2時間かけることもあるそうです。
観察力もアイデアも技術も持ち合わせている——ハイジ先生は「多才なんですよね」と語り、「自己表現ができるようになった」というのも、その実感の一つだといいます。
「自分の興味あることを『興味あるな』とか『好き』だけで終わらせないで自分でやってみるとか。こうアクションに移せるようになってきたのが、このニジアカに入って1年経ったぐらいなんじゃないかな」
こうした力を自分から見せるようになったのは、つい最近のことだといいます。

▲「好き」を、自分の手で形にする
ゆずちゃんの手作りのコスメ
一人で設計図を考えて作った作品の数々
毎回クラス会議で新作を
みんなに披露しているそうです
自分から、一歩を踏み出して
今年5月、ゆずちゃんはお母さんと一緒に、大阪公立大学の「たよラボ」に関する発表のため、EDIX東京へ登壇しました。話す内容は事前に考えて準備していました。無事に発表を終えた時、お母さんの心にあったのは、ホッとした気持ちだったといいます。
本当に驚かされたのは、その発表を終えたあとのことでした。ニジアカの終わりの会の時間——子どもたちがマイクを持って前で話す時間があり、お母さんは、ゆずちゃんが前に出て話すとは全く期待していなかったそうです。
「別に前に出て喋ることを全く期待してなかった」
ところが本人から「私も喋ろうかな」との言葉が出てきたそうです。全員が発言すると思い込んでスマホにメモを準備していたゆずちゃんでしたが、途中で全員ではないと気づきました。
それでも「せっかく作ったのにもったいない」と自分から前に出たそうです。不安がなくなったからではなく、自分で準備をして、自分で決めて一歩を踏み出した——そんな瞬間だったのかもしれません。
この時のことを、お母さんはこう振り返ります。
「堂々と喋って戻ってきた姿にびっくりしすぎて、涙が出ました」
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▲EDIX東京(今年5月)
自分の言葉で、思いを伝える
大阪公立大学「たよラボ」
に関する発表の様子

▲堂々と立った、その舞台で
発表を終えた後のゆずちゃん

▲発表を終えて、友だちとの再会
EDIX東京最終日
クラスの友だちと初めて
リアルの場で会えた時の様子
安心できる居場所の中で、自分のペースで進む今
「学校はしんどかったので、癒されてます」
入学してから約1年半、ゆずちゃんはニジアカに所属していることをそう表現します。ニジアカは、ゆずちゃんにとって、安心して自分を表現できる場所になっています。最近では、「ちゃんとしなきゃ」と感じることもほとんどなくなったそうです。ニジアカについてお母さんが尋ねると、ゆずちゃんは「絶対に辞めたくない」と即答するそうです。
今のゆずちゃんを支えているのは、ニジアカだけではありません。近くのフリースクールで仲良くなった友だちの存在も、大きな支えになっているようです。
「もう全然友だちもできたから。楽しいから、そんなママのこと忘れちゃうみたいな感じになるので、安心感があるので、今は全然大丈夫です」
いくつもの居場所に、安心できるつながりがある——それが、今のゆずちゃんの日常です。
お母さんは、ニジアカに入ってからのゆずちゃんの変化をこう教えてくれました。
「元気になってきて挑戦するようになってきて、それで自信ももうちょっとついてきて。下の子たちとも仲良くできるようになってきたっていう感じがします」
ハイジ先生は、ゆずちゃんの成長についてこう語ります。
「段階を踏んできてるんですよ、ゆずちゃんなりに。元々持っていた本来のゆずちゃんが、ちょっとずつその段階を踏むことによって出てきてる」
「教科の勉強が全てじゃないっていうことを、彼女の姿が物語ってくれてる」
ゆずちゃんは、着実に自分のペースで歩みながら、ニジアカが目指す姿を見せてくれている一人——ハイジ先生は、そう話してくれました。
これからやってみたいことを尋ねると、「ちょっとないかな」と少し照れたように答えたゆずちゃん。最後に今ニジアカに入りたいと考えている人へのメッセージを聞くと、こう教えてくれました。
「学校より授業が面白いから行ってみて」
おわりに
以前は、お母さんと離れることが難しかったゆずちゃん。今では「ちゃんとしないとダメ」と言ってきた「小人」の声も不思議とやわらぎ、「学び」と一緒に自分の「好き」「やりたい」を思いきり楽しんでいます。一つひとつ歩みを積み重ねていく中に成長がある——ゆずちゃんの姿が教えてくれます。これからもゆずちゃんらしい歩みを、私たちはずっと応援していきます。
記事執筆:ボランティアスタッフ みっちー

