誰もが知るプロ棋士の藤井聡太さんは、5歳のとき祖母から贈られた小さな盤駒セットから将棋に出会いました。最初の対局相手は祖父母、次第に地元の小さな将棋教室へ。誰かが「一緒にやろう」と声をかけてくれたから、そこに居場所ができた——強さの物語の前には、いつも誰かと出会えた物語があります。
NIJINアカデミーの将棋サークルから生まれた3人の小中学生も、まったく同じことに気づいていました。「将棋が好きでも、学校の中だと自分だけ。語り合える相手がいない」。そんなマイノリティな経験を誰よりも知っているからこそ、彼らは2026年6月、「NIJINオンライン将棋道場」という新しい場所を、自分たちの手で立ち上げました。
初回の参加者は、たった1人。それでも彼らは「0人より1人のほうがずっといい」と笑い、次の一手を考え続けています。この記事では、不登校というマイノリティな経験を抱えた生徒たちが、自分たちと同じ孤独を抱える全国の将棋好きな子どもたちのために、どのように居場所を作り上げていったのか、そのプロセスをお伝えします。

「学校だとマイノリティ」——3人が見つけた立ち上げの理由
NIJINアカデミーは、不登校を選択した小中学生が日本全国から集まるオンラインスクールです。授業だけでなく、生徒自身が企画する「サークル」活動が盛んで、将棋サークルもその一つ。2年前の6月8日、メンバーのたけんぴの誕生日に発足したこの将棋サークルは、毎週末に対局を重ねながら、少しずつ仲間を増やしてきました。


きっかけは、サークルの主要メンバーである小6・四段のはるみん、中2・たけんぴ、中1・1級のヨッシーの3人が、ある共通の思いに気づいたことでした。「もっと将棋仲間を増やしたい」「将棋で語れる仲間と出会いたい」。
たけんぴは、自身の体験をこんな言葉で語っています。「将棋を本格的に始めたのは小学5年生のとき。弟が通っていたNIJINアカデミーで、将棋ができる人と出会えたのがすごく嬉しかった」。実力が近い相手と巡り合えたことが、将棋を続ける原動力になったといいます。
そんな経験を持つ3人が、サークルでの議論を重ねるうちに、ある仮説に行きついたのです。「全国の将棋好きな小中学生も、学校やクラスの中だとどうしてもマイノリティなことが多いはず。だからこそ、学校に合わず、いまはNIJINアカデミーを学び場にしている自分たちだからこそ、立ち上げられる場所があるはずだ」。
将棋が好きでも、クラスに同じ趣味の友達がいない。対局したくても、知り合いと指せる機会はめったにない。その孤独を知っているのは、教育の専門家ではなく、いままさにそれを生きている当事者の子どもたちでした。こうして、外部の参加者も招き入れる「NIJINオンライン将棋道場」の構想が動き出します。

サーバーダウンも試行錯誤も。小中学生が重ねた本気の広報戦略
道場の構想がスタートしたのは2026年3月ごろ。毎週のサークル活動のたびに、3人は議論を重ねました。「どんなコンセプトにする?」「どんな人に来てほしい?」「そのために、どんなアクションができる?」。サポート役のいっさ先生は、あくまで脇に立ち、主役は常にたけんぴ・はるみん・ヨッシーの3人でした。
話し合いの末にたどり着いたコンセプトは、シンプルで力強い一言でした。「将棋友だちができる場所。」はるみんは「いろいろな人とにかくやりたい!」、たけんぴは「対局したり語ったりして将棋友達を作れる場所」、ヨッシーは「いろんな人とできる場所」と、それぞれの言葉でこの軸を語ります。サポートに入ったいっさ先生も「知り合いと対局できる機会が少ない将棋において、見知らぬ人どうしのオンライン対戦ではなく、全国の将棋友だちをつくる場所」とその意義を捉えていました。
コンセプトが決まれば、次は実行です。全国の将棋道場をリストアップし、一つひとつメールを送る。地元の将棋友だちを直接誘う。NIJINアカデミー内での認知を広げる。地道な広報戦略を重ねていきました。
もちろん、すべてが順調だったわけではありません。日本将棋連盟のホームページをリスト作成のために調べていたとき、タイミング悪くサーバーがダウンしてしまうという出来事もありました。「本当に人が来るのかな」という不安、そして「来すぎてうるさくなったら嫌かも」という、ちょっと意外な悩みも生まれたといいます。期待と不安が入り混じる、まさにゼロから何かを立ち上げる人特有の感情です。
それでも3人は、「将棋友だちができる場所。」というコンセプトと、「NIJINアカデミー生だからこそできるチャレンジだ」という確信を手放さず、プロジェクトを前に進めていきました。

初回の参加者は1人。それでも「0人より最高」と走り続けた2回
道場のスタートは2026年6月10日(水)。実はこの日、はるみんの誕生日でした。将棋サークルが生まれたのが2年前の6月8日、たけんぴの誕生日だったことを思えば、何とも縁を感じさせる巡り合わせです。
蓋を開けてみると、初回の参加者は1人でした。けれど3人は、その1人を「0人より1人のほうが、ずっといい」と受け止めます。これは謙遜ではなく、新しいことを始めた人にしか分からない実感のこもった言葉です。最初の一歩を踏み出した道場には、確かに1人の将棋友だちが現れてくれたのですから。
2回目に向けて、3人はすぐに次の準備に動き出しました。結果、2回目の参加者は3人に増加。そのうち、初めて外部からの参加者も訪れました。
会場となるのは、NIJINアカデミーが使う2次元のメタバース空間「NIJIN City」。ダブルクリックで自由に移動し、近づいたアバター同士が声やチャットで会話できる、いわば「放課後に全国の友達と公園で集まる」ような場所です。oViceというツールを使ったこの空間は、NIJINアカデミー生にとっては馴染みのある日常ですが、初めて訪れた外部の参加者にとっては、移動の仕方も会話の始め方も、すべてが新しい体験でした。実際、初めての外部参加者を迎えた回では、メタバース校舎の使い方に苦戦する場面もあったといいます。
ここで3人が選んだのは、「もっとわかりやすいガイドを作ろう」というポジティブな次の一手でした。実際に作成された参加者ガイドには、「勝負より楽しさ」「失敗は大歓迎」「全員が仲間」という道場の3つのモットーが掲げられています。「二歩を打っても、王手を逃しても大丈夫。笑って次に進もう!」という言葉や、「相手が嫌がる言葉は絶対に使わない」「良い手には『ナイス!』とチャットでたくさん褒め合おう」といった具体的な約束事は、対局の技術以上に、安心して将棋を楽しめる空気そのものを設計しようとする姿勢の現れです。挑戦は、まだまだ続いています。
未来への展望——「マイノリティ」だった経験が、誰かの居場所になる
藤井聡太さんが将棋と出会ったのは、祖母が買ってくれた小さな盤駒セットと、最初に対局してくれた家族の存在でした。多くの才能の物語は、競技の強さよりも先に、誰かと出会えた喜びから始まっています。NIJINオンライン将棋道場が目指しているのも、まさにそこです。強さを競う場ではなく、「将棋友だちができる場所」。
不登校という経験は、しばしば「学校に合わなかったこと」として語られます。しかし、はるみん・たけんぴ・ヨッシーの3人が見せてくれたのは、その経験こそが、同じように孤独を感じている誰かに気づき、手を差し伸べる力になるという事実でした。学校というクラスの中で将棋好きがマイノリティだったからこそ、彼らは「自分たちだからこそ作れる場所がある」と確信できたのです。
これは、保護者の皆さまにとって、一つの希望になるかもしれません。不登校という選択は、可能性を狭めるものではなく、むしろ我が子が自分自身の経験を社会への価値に変えていく、新しい力の芽になり得るのだということ。NIJINアカデミーが大切にしているのは、授業だけでなく、生徒自身がゼロから何かを立ち上げ、試行錯誤しながら形にしていく経験そのものです。今回の将棋道場も、サポート役のいっさ先生が脇に立ち、あくまで生徒たち自身が主体となって進めてきたプロジェクトでした。
そして企業の皆さまにとっても、この物語は一つの問いを投げかけます。当事者である子どもたちが、自分たちの経験を起点に課題を発見し、解決策を考え、実行に移していく——これはまさに、これからの教育や社会課題解決の現場で求められる「共創」の姿そのものではないでしょうか。NIJINアカデミーという学び場は、生徒たちのこうした挑戦を温かく支え、実社会とつながる機会を共に作っていくパートナーを求めています。
道場はまだ2回しか開催されていません。参加者ガイドはまだブラッシュアップの途中で、運営の3人も試行錯誤を重ねる日々です。けれど、「学校に合わなかった」というかつての経験を、「だからこそ作れる場所がある」という確信に変えた3人の挑戦は、すでに次の一手を指し始めています。次にこの道場の盤を挟むのは、あなたかもしれません。
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NIJINアカデミー 伊佐
Mail:nijin.academy@nijin.co.jp(事務局)

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