子どもが「嫌だ」と言ったとき、私たち大人はどう受け止めているでしょうか。「頑張ってみよう」「大丈夫だよ」と励ますこともあれば、よかれと思って考え方を変えようとすることもあります。でも、本当にその子に必要なのは、別のことなのかもしれません。
「うちの子は本音を言ってくれない」「嫌なのに我慢しているように見える」。そんな気がかりを抱えている保護者の方へ。この記事では、NIJINアカデミー京都・金閣寺校の遠足で、小学6年生のK君が初めて「イヤ」を言葉にしてくれた日のことを、教室スタッフの私の目線でお伝えします。子どもの「イヤ」は、困った反応ではなく、その子が大切にしているものを教えてくれる声です。読み終えたあと、今日の声かけをひとつ変えてみるヒントになればうれしいです。
- 「イヤ」の奥には、その子が大切にしているものがある——K君は「ルールは破りたくない」「知らん人がたくさんいるところで食べるのはイヤ」と話してくれました。
- 必要なのは、考え方を変えさせることではない——「そう思っていたんだね」と、気持ちをそのまま受け止めることでした。
- 受け止められた安心感が、次の行動を生む——K君は自分で納得して、お弁当を広げました。
- 大人の役目は「変えること」ではなく「理解しようとすること」——答えを与えるのではなく、子ども自身が答えを見つけるのを待ちます。
この記事は、全国から累計1000名を超える子どもたちが在籍する、不登校の小中学生のためのオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」京都・金閣寺校でのエピソードです。子どもの「イヤ」という声にどう向き合うかを考えるヒントとしてご覧ください。
K君は、周りに気を遣う繊細な6年生
K君は6年生の男の子です。繊細で周りの子に気を遣い、自分の言いたいことを言えなくなってしまっていました。
また、「きちんとしなきゃ」という思いが強く、ルールや「~ねばならない」にとてもこだわってしまっているように見える子でした。
K君は普段、自分の気持ちをあまり口にしません。相手の様子を見ながら、本当は嫌でも我慢してしまうことが多い子です。
「言わない」は「思っていない」ではない
一般的に、周りをよく見ている子ほど、自分の気持ちを後回しにすることが多いと言われます。場の空気を壊したくない。相手を困らせたくない。そう考えて、言葉を飲みこんでしまうのです。
大人から見ると「手のかからない子」「聞き分けのいい子」に映ることもあります。けれど、何も言わないことと、何も感じていないことは同じではありません。だからこそ、次にご紹介する遠足の日の出来事は、私にとって忘れられないものになりました。
遠足の日に起きた小さな出来事
「先生、教室に帰れへんの?」
その一言に、私は立ち止まりました。先日、子どもたちと遠足に出かけた日のことです。
「ここは飲食禁止」と書かれていた昼食場所
昼食をとる予定だった場所に着くと、「ここは飲食禁止」と書かれていました。管理人さんに確認すると、「今日は食べても大丈夫ですよ」と快く許可をしてくださいました。
ほっとしたのも束の間、一人だけお弁当を出そうとしない子がいました。K君です。
「ぼく、ここでは食べたくない」
私は別の場所も探しました。それでもK君は座ろうとせず、ほかの子どもたちが食べ始めても動きません。そして私に尋ねました。
「先生、教室に帰れへんの?」
頭の中はフル回転。それでも伝えた言葉
教室までは40分以上。予定をどう組み直そうか、頭の中はフル回転でした。それでも、私はこう伝えました。
「ごめんな。食べにくかったよな。食べる場所、ちゃんと探しておけばよかった。みんなが食べ終わったら帰ろうか。」
「許可をもらったから大丈夫だよ」と説明することもできた場面です。「みんなも食べているよ」と促すこともできました。けれど、このとき実際に伝えたのは、説得の言葉ではなく、「食べにくかったよな」という言葉でした。
初めて聞くことができた本当の気持ち
しばらくすると、K君は静かに私の前へ座り、お弁当を広げました。そして、ぽつりと話してくれました。
「ぼく、いくらいいって言われてもルールは破りたくないねん。知らん人がたくさんいるところでご飯食べるのもイヤやってん。でも、まじめやって言われるのもイヤやってん。」
私は、その言葉を忘れられません。
普段は自分の気持ちをあまり口にしないK君です。だからこそ、この日初めて聞くことができた「嫌だ」という言葉が、本当にうれしかったのです。
ひとつの「イヤ」に、3つの気持ちが入っていた
K君の言葉には、3つのことが含まれていました。
- いくら「いい」と言われても、ルールは破りたくない
- 知らない人がたくさんいるところで、ご飯を食べるのはイヤ
- でも、「まじめ」だと言われるのもイヤ
「ここでは食べたくない」という短い言葉だけでは、ここまではわかりません。外から見えていたのは「お弁当を出さない」「座らない」という行動だけでした。行動の理由は、本人が話してくれて初めてわかるものです。そして、話してもらうためには、まず話せる空気が必要です。
図解:K君が「イヤ」を言えるまでにあったこと
あの日の流れを、3つの場面に整理します。
大人がしたことは、ルールを変えることでも、説得することでもありませんでした。
お弁当を出そうとせず、座ろうとしない。ほかの子が食べ始めても動きませんでした。
「みんなが食べ終わったら帰ろうか」と伝えて、K君の気持ちを受け取りました。
「知らん人がたくさんいるところでご飯食べるのもイヤやってん」と、ぽつりと話してくれました。
同じ流れを、時間の順に並べるとこうなります。
- 到着:昼食場所に「ここは飲食禁止」の表示管理人さんに確認し、「今日は食べても大丈夫ですよ」と許可をいただきました。
- サイン:K君だけお弁当を出さない「ぼく、ここでは食べたくない」。別の場所を探しても、座ろうとしませんでした。
- 問いかけ:「先生、教室に帰れへんの?」教室までは40分以上。予定の組み直しを考えながら、まずK君の言葉を聞きました。
- 受け止め:「ごめんな。食べにくかったよな」食べる場所を探しておけばよかったと伝え、「みんなが食べ終わったら帰ろうか」と話しました。
- 変化:自分から座り、お弁当を広げるしばらくして、K君は静かに私の前へ座り、本当の気持ちを話してくれました。
注目したいのは、4つ目から5つ目のあいだに「しばらく」の時間があったことです。大人が何かを言い足したわけではありません。待っている時間のなかで、K君自身が動きました。
子どもを変えようとしていないだろうか
私たちは大人として、つい「この方が生きやすいよ」と思ってしまいます。
「そんなに気にしなくていいよ。」
「肩の力を抜けばいいのに。」
そんな言葉も、きっと悪気はありません。でも、それは無意識のうちに「変わった方がいい」と伝えてしまっているのかもしれません。
あの日、K君に必要だったのは、考え方を変えることではありませんでした。「そう思っていたんだね。」その気持ちを、そのまま受け止めてもらうことだったのだと思います。
だからこそ、自分の思いを伝えられた安心感の中で、自分自身で納得し、「ここで食べよう」と次の行動を選ぶことができたのでしょう。お弁当を食べているK君の表情は、とてもすっきりして見えました。
「励ます」「説得する」「受け止める」のちがい
子どもが「イヤ」と言ったときの大人の関わり方を、3つに分けて整理しました。どれが正しい・間違いということではなく、伝わり方のちがいを見るための一般的な目安です。
| 関わり方 | 声かけの例 | 子どもに伝わりやすいこと(一般的な傾向) |
|---|---|---|
| 励ます | 「頑張ってみよう」「大丈夫だよ」 | 応援されている。ただ、「イヤ」と感じた理由は聞いてもらえていない |
| 考え方を変えようとする | 「そんなに気にしなくていいよ」「肩の力を抜けばいいのに」 | 今の自分の感じ方は、変えた方がいいものらしい |
| 受け止める | 「そう思っていたんだね」「食べにくかったよな」 | 自分の感じ方を、そのまま聞いてもらえた |
励ましも助言も、子どもを思うからこそ出てくる言葉です。ただ、順番があります。まず受け止める。助言や励ましは、そのあとでも遅くありません。
私が大切にしたい「子どもの主体」
私は、「子どもの主体」を大切にしたいと考えています。そのために、いつも心に置いていることがあります。
金閣寺校のスタッフとして、日々自分に問いかけていることです。
その子は何を大切にしているのだろう、と知ろうとすること。
その思いを、まず受け止めること。
自分の価値観を押し付けていないかを、常に問い続けること。
子どもは、自分の思いが受け止められたと感じたとき、初めて自分で考え、納得し、自分の意思で次の一歩を踏み出せるのではないでしょうか。
大人が答えを与えるのではなく、子ども自身が答えを見つけていく。そのために必要なのは、「変えること」ではなく、「理解しようとすること」。遠足での小さな出来事は、そんな大切なことを、改めて私に教えてくれました。
このエピソードは、動画でもご覧いただけます。
大切な声として聴きたい
「本音を言ってくれない」「学校の話になると黙ってしまう」。そんなお悩みも、LINEでスタッフがお話をうかがいます。
「イヤ」を言える安心感を支える、NIJINアカデミーのしくみ
子どもの気持ちを受け止めるには、大人の側にも「待てる余裕」が必要です。人数が多く、時間に追われる環境では、一人の「食べたくない」にじっくり付き合うことは簡単ではありません。NIJINアカデミーには、その余裕をつくるためのしくみがあります。
「言っても大丈夫」と思える関係は、日々の積み重ねから生まれます。
異年齢の少人数クラスなので、一人ひとりの様子に目が届きます。ホームルームやクラス会議で、意見を出し合う機会もあります。
教員経験や不登校経験などを持つスタッフが伴走します。小さなサインや、ぽつりと出た言葉を受け取ります。
メタバース校舎にはアバターで登校。カメラ・音声オフ、チャットやリアクションだけの参加もできます。
点数ではなく、その子の歩みを記録する
NIJINアカデミーには定期テストがありません。担任の所見による学びのポートフォリオで成長を記録していきます。
「自分の気持ちを言葉にできた」という一歩は、テストの点数には表れません。けれど、その子にとっては大きな出来事です。数字にならない成長を、成長として残せることを大切にしています。
オンラインとリアル、どちらからでも始められる
NIJINアカデミーは、全国どこからでも参加できるメタバース校舎に加えて、リアル教室が全国52か所にあります。週1から通える特化型リアル校で、アート・体操・プログラミング・農園など、教室ごとに特色があります。京都・金閣寺校もそのひとつです。
オンラインとリアルの併用もできます。人が多い場所が苦手な子は、まずオンラインで慣れてからリアル教室へ。直接会って話す方が安心な子は、リアル教室から。入り口をその子に合わせて選べます。
行事にも特徴があります。修学旅行や遠足は、子どもたちが行き先や内容を企画します。「どこへ行きたいか」「何をしたいか」を自分たちで話し合う経験も、気持ちを言葉にする練習のひとつです。
京都金閣寺校は、「大丈夫」を育てる教室です
京都金閣寺校は、「自分」も「ひと」も大切にする中で「大丈夫」を育てる教室です。不登校の子どもたちが安心して過ごせる居場所であると同時に、一人ひとりの「知りたい」「やってみたい」を大切にする学びの場です。
育てたいのは、知識や技術だけではありません
「うれしい」「悔しい」「不安」「挑戦してみたい」。そんな一つひとつの気持ちを大切に受け止め、自分の気持ちに気づき、相手の気持ちにも思いを巡らせる力を育てたいと思っています。
安心できる場所だからこそ、人は挑戦できます。失敗しても受け止めてもらえる安心感があるからこそ、「もう一回やってみよう」と前を向くことができます。
五感を使って夢中になれる活動
教室では、科学実験やモノづくり、アート、歴史、社会とのつながりを感じられるプロジェクトなど、五感を使って夢中になれる活動を数多く取り入れています。
「どうしてこうなるんだろう」「もっとやってみたい」。そんな小さな好奇心が、深い学びの入り口となり、「好き」という思いが子どもたちの未来を支えます。
教室の場所や活動の様子は、NIJINアカデミー京都金閣寺校のページでご紹介しています。京都市北区・上京区・右京区、亀岡市周辺から通えるリアル教室です。
気持ちを言いにくい子に合う学びの場は?選び方の比較
周りに気を遣って本音を飲みこみやすい子にとっては、学ぶ内容と同じくらい、「気持ちを聞いてもらえる環境かどうか」が大切です。一般的な傾向を表にまとめました。
お子さんの今の状態に合うものを考えるための目安です。
| 大人数の学級 | 家庭での自主学習のみ | NIJINアカデミー | |
|---|---|---|---|
| 一人の気持ちに時間をかけやすい | △ | ○ | ○ |
| 同年代の仲間と関われる | ○ | × | ○ |
| 参加のしかたを自分で選べる | △ | ○ | ○ |
| 家族以外の大人が継続して伴走する | ○ | × | ○ |
| 行事の内容を子どもが企画する | △ | × | ○ |
| 毎日通える校庭・給食がある | ○ | × | × |
○=対応 △=一部・学校や学級による ×=非対応 / ※一般的な傾向です。実際の様子は学校・ご家庭ごとに異なります。
NIJINアカデミーはメタバース校舎が中心なので、毎日通う校庭や給食はありません。そのかわり、在籍校はそのままで、学校との併用もできます。
NIJINアカデミーは、学校に戻ることを目的にはしていません。戻る・戻らないのどちらも否定せず、その子が今いちばん安心して学べる形を一緒に探します。なお、希望者の出席認定率は97%です(在籍校の出席扱い。最終判断は在籍校の校長が行います)。
家庭で今日からできること|「イヤ」を聴く5つの関わり方
遠足での出来事から、ご家庭でも取り入れやすい関わり方をまとめました。あくまで一般的な例です。お子さんの様子に合わせて、できそうなものから試してみてください。
| 場面 | つい言いがちな声かけ | こう変えてみる(一例) |
|---|---|---|
| 「行きたくない」と言った | 「行けば楽しいよ」 | 「行きたくないんだね」と、まず言葉をそのまま返す |
| 理由を聞いても黙っている | 「言わないとわからないよ」 | 「話したくなったら教えてね」と伝えて、その場は待つ |
| 細かいことを気にしている | 「そんなに気にしなくていいよ」 | 「そこが気になるんだね」と、気にしている点を確かめる |
| 予定どおりに動けなかった | 「みんなはできているよ」 | 「やりにくかったね。どうしたい?」と本人に聞く |
| あとから本音を話してくれた | 「最初から言えばよかったのに」 | 「話してくれてありがとう」と受け取る |
「受け止めること」と「言いなりになること」は別
気持ちを受け止めるというのは、子どもの希望をすべて叶えることではありません。あの日も、飲食の許可がいただけたという事実は変わっていません。変えたのは、K君の「食べにくい」という気持ちへの向き合い方でした。
「それはできないけれど、イヤだった気持ちはわかったよ」。この2つは同時に伝えられます。ルールや予定と、気持ちの受け止めを分けて考えると、大人の側も楽になります。
わが家の関わりを振り返るチェックリスト
- 子どもが話し終わる前に、解決策を言っていないか
- 「でも」「だって」で返していないか
- 返事を待つ沈黙を、質問で埋めていないか
- きょうだいや周りの子と比べる言い方をしていないか
- 「イヤ」と言えたこと自体を、認める言葉をかけているか
全部できている必要はありません。私自身、あの日も頭の中は予定の組み直しでいっぱいでした。余裕がない日があるのは当たり前です。ひとつ気づけたら、それで十分です。
ルールへのこだわりや、人が多い場所での食事の苦手さは、その子の感じ方のひとつで、それ自体が問題というわけではありません。ただ、日常生活に大きな支障が出ている、本人がとてもつらそうにしているなど気になる様子が続く場合は、専門機関への相談も選択肢のひとつです。
NIJINアカデミーの校長・星野達郎(タツロー校長)は、2021年度まで公立小学校の教員でした。設立の原点には、「明るくない子どもなんていない。問題児なんてたったの一人もいない」という言葉があります。「イヤ」と言う子は、困った子ではありません。自分の大切なものを伝えようとしている子です。NIJINアカデミーは、その声を聴くところから始めます。
よくある質問
まとめ
遠足の昼食場所で、K君は「ぼく、ここでは食べたくない」と言い、座ろうとしませんでした。私が「ごめんな。食べにくかったよな」と伝えてしばらくすると、K君は自分から座ってお弁当を広げ、ルールを破りたくないこと、知らない人がたくさんいる場所で食べるのがイヤだったこと、まじめだと言われるのもイヤだったことを話してくれました。
あの日に必要だったのは、考え方を変えさせることではなく、「そう思っていたんだね」と受け止めることでした。受け止めてもらえた安心感の中で、K君は自分で納得し、次の行動を選びました。
その子は何を大切にしているのかを知ろうとすること。その思いをまず受け止めること。自分の価値観を押し付けていないかを問い続けること。私が心に置いているこの3つは、ご家庭でもすぐに試せます。
次にお子さんが「イヤ」と言ったら、理由を説明する前に、まず「イヤなんだね」と返してみてください。そのひとことが、本当の気持ちを聴く入り口になります。
一緒に聴かせてください
気持ちを言葉にするのが苦手なお子さんも、自分のペースで過ごせます。気になることは、LINEでスタッフにお気軽にご相談ください。

