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【EDIX 2026】むつ市×TOPPAN×オンラインフリースクールNIJINアカデミーの3者連携で挑む、メタバースを活用した不登校支援の実態とこれからの可能性

近年、不登校児童生徒への多様な学びの場づくりが急務となる中、ICTやメタバース(仮想空間)を活用した支援に注目が集まっています。

本記事では、2026年5月に開催された教育ITソリューションEXPO(EDIX東京2026)でのセミナーの模様をレポートします。

青森県むつ市教育委員会、TOPPAN株式会社、そしてNIJINアカデミーの3者が本音で語り合った、メタバース支援導入の背景、現場での子どもたちの変容、そして「予算やセキュリティ、出席扱い」という自治体特有のハードルをどう乗り越えたのか、その舞台裏をお届けします。

登壇者紹介

(中央)氣仙 氏(むつ市教育委員会) :小学校教員を経て現職。むつ市の不登校支援、多様な学びの場づくりを牽引。
(右)中村 氏(TOPPAN株式会社) :AI学習ドリル「ナビマ(navima)」等を活用し、長年教育領域での学習支援や自治体コラボレーションを担当。

1. 導入の背景:人口5万人の街で、182人の子どもたちに「光」を当てる

青森県の本州西北端に位置するむつ市は、人口約5万人の自治体です。市内の小中学生約3,000人のうち、不登校児童生徒は182人(実施当時)。この数字を重く受け止めた市長と教育委員会が動いたことが、本プロジェクトの始まりでした。

元々は市長の発案で「英語教育・海外留学」のために検討されていたメタバース空間でしたが、教育委員会の記氏が「この一歩を、今最も支援を必要としている不登校の子どもたちのために使わせてほしい」と市長へ直訴。市長の快諾を受け、不登校支援への活用へと舵を切りました。

2. 【仕組み】「自治体×企業×教育」3者連携の強みと役割分担

本事業の最大の特徴は、単にICT教材を導入するだけでなく、行政・民間企業・オルタナティブスクールがそれぞれの強みを活かして役割を分担している点にあります。

【むつ市教育委員会】(全体統括・予算確保・公的出席扱いの担保)

▼(事業委託)
【TOPPAN株式会社】(ガバナンス・セキュリティ担保、AIドリル「navima」提供、学習データ可視化)

▼(パートナーシップ)
【NIJINアカデミー】(メタバース空間の運営、教育コンテンツ提供、専門スタッフによる居場所支援)

各者の役割

むつ市教育委員会: 事業の主体となり、公的な出席扱いの担保や予算措置、学校現場との調整を担う。
TOPPAN株式会社: 国際基準のセキュリティに基づき、安全なネットワーク環境を構築。個別最適な学びを支えるAIドリル「navima」を提供し、家庭での学習データを「可視化」する。
NIJINアカデミー: メタバース空間での「安心・安全な居場所(サードプレイス)」を提供。子どもたち一人ひとりに寄り添う教育、カリキュラムの運営を行う。

ブラックボックス化しがちだった「不登校傾向にある児童生徒の家庭での様子や学び」を、民間のテクノロジーで可視化し、教育の専門家が伴走し、行政が承認する仕組みです。

3. 子どもたちの具体的な「変容」:登校一辺倒ではない、主体的な選択

現在、むつ市のメタバース(通称「むつっこメタバース」)には4名の子どもたちが継続して通っています。半年間の実践の中で、以下のような劇的な変容が見られました。

【事例】中学2年生の生徒のケース

  • 開始当初(9月): 最初はスタッフへの応答も一言二言。周囲の様子をうかがいながらの参加。
  • 中期(冬): メタバースの環境に馴染むにつれ、自分の趣味、友達のこと、過去に学校にいた時のことなどを自発的に語り始める。東ティモールとの国際交流イベントでは、自ら声を出して発表することにも挑戦。
  • 現在: 自ら進んで学習に取り組み、現在は「塾」「在籍学校」「メタバース」を併用するまでに。

支援において重要な2つの視点

  1. 「学校復帰」をゴールにせず、徹底的に「待つ」 :スタッフから学校復帰を促すアプローチは一切行いません。子どもが心からの安心感を得て、自分から次のステップ(学校や将来の話)を切り出すまで徹底的に待ちます。
  2. 自分で「学びの場」を選択できる状態を目指す :「学校へ100%戻ること」だけが正解ではありません。自分のペースに合わせて、今日は学校、明日はメタバース、と主体的に学びの場を選択できるマインドの育成を重視しています。

4. 教育委員会が直面する「3つのハードル」をどう乗り越えたか?

自治体がメタバース支援を導入する際、必ず課題となるのが「予算」「セキュリティ」「学校現場の理解(出席扱い)」です。むつ市はこれらを以下の方法でクリアしました。

① 予算獲得のハードル

自治体内部では「少数派(マイノリティ)への投資に対する費用対効果」が議論になりがちです。むつ市では、国の補助金を積極的に活用。前例のない申請に教育委員会が挑戦し、市長の強いバックアップのもとで財源を確保しました。

② セキュリティと個人情報の壁

「メタバース空間に子どもを参加させる際の個人情報漏洩」を防ぐため、空間内では徹底して「ニックネームのみ」でのやり取りに限定。個人情報は教育委員会側のみが保有し、TOPPAN印刷が持つ国際基準(ISO27001等)に準拠した堅牢なガバナンス体制でリスクを物理的に遮断しています。

③ 学校現場の理解と「出席扱い」の担保

「メタバースで過ごすことは、ただ遊んでいるだけではないか」という現場の懸念に対し、氣仙氏は直接校長会に赴いて対話を重ねました。「遊びの中にこそ子どもたちの主体的な活動と意味がある」と価値づけを説明。 最終的に教育委員会から、「メタバースでの活動は、リアルな教育支援センター(適応指導教室)での活動と同等とみなす」という通知を出しました。出席扱いの最終権限は校長にありますが、この通知により、現在利用生徒の100%が出席扱いとなっています。

5. 今後の展望:メタバースはゴールではなく、多様な教育への「通過点」

「メタバースは不登校支援の『本線』ではなく、あくまで選択肢の1つ」と記氏は語ります。むつ市では現在、リアルの教育支援センターの回収を進めているほか、2027年(令和9年)4月には「学びの多様化学校(不登校特例校)」の開校を予定しています。

デジタル(メタバース・AIドリル)とアナログ(リアルな教室、アートプログラム等)の両面から、子どもたち一人ひとりの個性に合わせたサードプレイスを整備していく方針です。

結び:全国の教育委員会の皆様へ

メタバースは不登校をすべて解決する「魔法の杖」ではありません。しかし、従来の学校の枠組みに苦しんでいた子どもたちが、もう一度社会や学びとつながるための極めて有効な「入り口(通過点)」になります。

マイノリティの教育環境を整えることは、結果として既存の学校教育のあり方をアップデートすることにつながります。むつ市と民間企業の挑戦の事例が、全国の自治体における新しい一歩のヒントとなっていくはずです。