「学校へ戻した方がいいのではないか」
「この選択で、本当に良いのだろうか」
小学4年生から不登校を経験した娘さんの居場所を探しながら、
ゆいちゃんのお母さまは、何度も悩み続けていたといいます。
オンラインスクールやメタバースという、まだ見えにくい選択肢への不安。
それでも、“子どもの反応”を信じて、一歩を踏み出したこと。
今回は、中学1年生の「ゆいちゃん」のお母さまに、
保護者としての葛藤や迷い、そして入学後に見えてきた変化について、お話を伺いました。
「休ませちゃいけない」――学校に行かせることで頭がいっぱいだった

ゆいちゃんが学校へ行き渋るようになったのは、小学4年生の冬休み明けでした。
最初は、「今日は休ませようかな」という程度だったそうです。
しかし、それが2日、3日と続くにつれ、お母さまの不安は大きくなっていきました。
「とにかく、休ませちゃいけないって思っていました。
“休み癖がついたらどうしよう”って。」
朝になるたびに、「今日はどうやって学校へ行かせよう」と考えていたといいます。
車に乗せ、学校まで送る。
先生に引き渡す。
時には、家から車まで無理やり連れていったこともありました。
「今思うと、必死だったんですよね。」
お母さまはフルタイムで仕事をされています。
家で一人にしておく不安。
誰とも関わらず、YouTubeを見たり寝たりして過ごす生活。
勉強もしない。外にも出ない。
「これでいいのかなって、ずっと思っていました。」
特に怖かったのは、“終わりが見えないこと”だったといいます。
「生活リズムも崩れて、夜遅くまで起きていて。
外に出ないから、体も疲れない。
人間らしく生きていけるのかなって、不安でした。」
そして同時に、自分たち家族の将来も揺らいでいく感覚があったと振り返ります。
「仕事をしないと生活は回らないし、
自分が思い描いていた将来と、どんどんズレていく感じが怖かったですね。」
「無理をさせちゃいけない」――娘の身体に起きた変化
学校復帰を目指して、夫婦でたくさん話し合いもしました。
ご主人も一緒に悩み、話を聞いてくれていたといいます。
ただ、実際に学校へ連絡し、朝の声かけをし、子どもの様子を見続けていたのは、主にお母さまでした。
「主人も気にかけてはくれていました。でも、実際に毎日何が起きているかは、その場にいないと分からない部分も多くて……」
“今日はどうやって学校へ行かせよう”
そのことを考え続けながら、仕事と家庭、子どもの対応を同時に回し続ける日々。
当時を振り返り、お母さまは、
「ずっと気が張っていたと思います」
と話してくださいました。
担任の先生や通級の先生とも相談し、「まずは自信をつけさせよう」と褒める関わりを増やしたこともあったそうです。
それでも、状況はなかなか変わりませんでした。
そして行き渋りが始まって数か月、ゆいちゃんの身体にも少しずつ変化が出始めます。
ご飯が食べられなくなったり、心と身体のバランスを崩してしまったり――。
「その時に、この子は本当に頑張っている。“もう無理をさせちゃダメなんだ”って思ったんです。」
それまでのお母さまは、“学校へ戻すこと”を第一に考えていました。
けれど、心だけではなく身体にも負担が出ている姿を見て、
「まずは、この子が安心して過ごせることが大事なんだ」
と考えるようになったといいます。
「高い」と感じたのは、お金だけではなかった

ゆいちゃんの居場所を探す中で、さまざまな選択肢も検討しました。
名古屋市のフリースクールに問い合わせたこともあります。
絵が好きだったため、絵画教室へ通ったこともありました。
しかし、送迎や予約の問題、仕事との両立の難しさもあり、長く続きませんでした。
そんな中、転機になったのは、弟さんが通っていたプログラミング教室でした。
「今度、フリースクールを始めるんです」
そう声をかけられたことをきっかけに、NIJINアカデミーのリアル教室体験へ参加することになります。
ただ、最初から前向きだったわけではありません。
「正直、かなり悩みました。」
お母さまの中には、“オンラインスクール”という選択肢自体がありませんでした。
「メタバースとかオンラインとか、未知の世界すぎて。
周りに経験者もいないし、“その後どうなったか”っていう話も聞かない。」
そして、現実的な悩みもありました。
「金額的にも、安くはないですし。
小学6年生という大事な時間を、ここに使っていいのかって、すごく迷いました。」
不登校の子どもの居場所を探す中では、何かを選ぶたびに、「本当にこれでいいのだろうか」という迷いがつきまといます。
もし他の選択肢の方が良かったらどうしよう。
この子に合わなかったらどうしよう。
「この選択で、本当に良かったのだろうか。」
これまでにも、いろいろな場所や方法を試してきたからこそ、新しい選択肢に踏み出すハードルは、少しずつ高くなっていたといいます。
「もし合わなかったらどうしよう、っていう不安が、ずっとありました。」
それでも最後に背中を押したのは、やはり“ゆいちゃん本人の反応”でした。
「本当は、外に出たかったんだなって思いました」
リアル教室の体験に参加した日。
お母さまは、これまでと違う娘の姿を見ます。
「“行く”って、自分で言ったんです。」
しかも、最後までその場にいられた。
楽しそうに過ごしていた。
お母さまが様子を見に行った時も、笑顔だったそうです。
「こんなに楽しそうに外へ行く姿を、久しぶりに見ました。」

その瞬間、お母さまは感じたといいます。
「本当は、外に出たかったんだなって。」
もちろん、不安が消えたわけではありません。
それでも、
「この子がこんなに反応するなら、一回やってみよう」
そう思えたことが、大きかったそうです。
“好き”が、初めて誰かにつながった
入学後は、思っていた以上にスムーズだったといいます。
特に驚いたのは、「友達できたよ」という娘の言葉でした。
「オンラインで友達ができるなんて、私には全然イメージがなかったんです。」
さらに、生活リズムにも変化が現れました。
朝のホームルームに合わせて起きる。
自分から参加する。
「ちゃんと朝起きるようになったのが、まず安心でした。」
そして、ゆいちゃんの“好き”も大きく動き始めます。
もともと好きだったイラスト。
それをSlackやクラス会議で発表すると、「いいね!」という反応が返ってきました。
「家族以外の人が認めてくれたのが、すごく大きかったです。」

毎日投稿を続ける。
もっと上手くなりたいと思う。
YouTubeで描き方を調べる。
本を読む。
自分で練習する。
「これが本当にやりたかったんだなって思いました。」
さらに、イラストはリアル教室での活動にも広がっていきます。
クッキーの型づくり。
YouTube編集。
イラストサークルのリーダー。
「“こうしてみようか”って、周りが巻き込んでくれたんです。」
その姿を見ながら、お母さまはこう感じていました。
「カゴの中にいた鳥が、羽ばたいていくみたいでした。」
「見守る」は、簡単じゃない
最後に、お母さまは当時の自分へ、こんな言葉をかけたいと話してくださいました。
「無理しなくてもいいよ、って言いたいです。」
そして、同じように悩む保護者へ。
「私は、“見守る”のが本当に苦手でした。」
何かしなきゃ。
何とかしなきゃ。
そう思えば思うほど、視野が狭くなっていたといいます。
「でも、一回立ち止まって見守ることが、私には必要だったんだと思います。」
もちろん、それは簡単なことではありません。
変化が見えない中で待つのは、苦しい。
親自身も不安になる。
それでも。
「見守ることで、見えてくるものもありました。」

そして最後に、こんな言葉も添えてくださいました。
「子どものことだけじゃなくて、親自身もちゃんと休んでほしいです。
疲れたら、一人になる時間を作ってもいい。
親も、自分自身を見守ってあげてほしいと思います。」
正解が分からないまま、迷いながら進むしかない。
それでも、“子どもの反応”を信じてみる。
ゆいちゃんの変化は、そんな小さな決断の積み重ねから始まっていました。
インタビューを終えて
今回、お話を伺いながら、何度も印象に残った言葉がありました。
「この選択で、本当に良かったのだろうか。」
ゆいちゃんがNIJINアカデミーへ入学したのは、小学6年生の秋。
“中学生になれば、環境が変わってリセットできるかもしれない”
そう考える保護者の方は、少なくないと思います。
一方で、中学校入学までは、まだ数か月ある。
その数か月を、「あと少し」と感じるか、「まだ数か月もある」と感じるかは、置かれている状況によって全く違います。
すでに何年も、子どもの不登校と向き合い続けてきた保護者にとって、
その時間は、とても長く、先の見えないものだったのではないかと感じました。
オンラインスクールやメタバースという選択肢は、少しずつ増えてきています。
ただ、保護者にとっては、まだまだ“未知の世界”でもあります。
本当に、この子の居場所になるのか。
外からは見えにくく、「この選択でいいのだろうか」と悩み続ける保護者も少なくないのではないかと感じました。
周囲に経験者も少ない中で、“まだ答えの見えない選択肢”に、一歩踏み出す。
その怖さや葛藤を、今回のインタビューを通して、強く感じました。
インタビューの中で印象的だったのは、
“簡単には決められなかった”という、お母さまの言葉でした。
最初、私は“金額”のことだと思っていました。
けれど、お話を聞き続ける中で、
それは単なる費用の話ではないのだと感じました。
もし合わなかったら。
もし他の選択肢の方が良かったら。
もし学校にも戻れなかったら。
そんな“不確かな未来”に対して、
大切な子どもの時間を使うことへの怖さ。
だからこそ、お母さまが最後に、
「子どもの反応を見て、やってみようと思った」
と話されていたことが、とても印象的でした。
あの日、お母さまが感じた
「この子、楽しそうだな」
という小さな実感。
その感覚が、次の一歩につながっていったのかもしれません。
取材・文/NIJINアカデミー ボランティアスタッフ コージー

